UNRWA保健局の小川真以です。本日は、UNRWAのクリニックの様子をお伝えします。
UNRWAには580万人のパレスチナ難民が登録されていて、そのうち約200万人が保健サービスを受けています。UNRWAは5つの国・地域で活動をしており、ヨルダン、レバノン、シリアそしてパレスチナ(ヨルダン川西岸とガザ地区)に140か所のクリニックを置いていて、約3000人の保健スタッフが働いています。
ちなみに、UNRWAクリニックは第一次医療で、プライマリーヘルスケアを基本としています。

患者さんは通院で何度かクリニックに来るので、1年の診療数は800万件にものぼります。一人の医師が1日に診察する患者の数は約80名、こんなに数が多いと一人の患者さんに割ける時間は必然的に短くなり、約3.5分です。十分な時間ではありませんが、この時間内に医師は患者の症状を把握し、診断をして、薬を処方をし、電子カルテに患者情報を入力し、次の通院の予約をカレンダーに入れます。患者は、その後看護師に処置をしてもらったり、検査部で血液検査や尿検査を受け、再度医師に結果を見てもらい、薬が出た場合は薬局で薬をもらいます。
妊婦の場合は、母子保健手帳を発行してもらい、産婦人科医や助産師による妊婦検査を受け、栄養アドバイス等の健康教育を受けます。UNRWAのクリニックでは、歯科サービスも提供しており、すべてのクリニックに歯科医が働いていて、予防クリーニング、虫歯治療やフッ素の塗布などしてくれます。
さらに、前述のようにUNRWAクリニックではプライマリーヘルスケアなので、病院への転送や入院が必要となった場合、UNRWAでは対応できないので、他の医療機関に行かなければいけません。UNRWAの医師が紹介状を書き、それを持ってUNRWAが提携している公立や私立の病院にかかったり、入院することもできます。

UNRWAはこれらの医療サービスすべてを無料でパレスチナ難民の患者に提供しています。これには、もちろん大きな予算が必要で、1年で保健局が使う予算は、約125百万ドル(約160億円)です。すべてを国連加盟国からの拠出金や助成金で賄っています。これに加えて、COVID-19などの感染症対策やガザでの武力紛争時など緊急のニーズにも対応するには、さらに予算が必要となります。
では、なぜUNRWAはこんなに多くのスタッフを雇い、大きな予算を使って無料で保健サービスを提供しているのでしょうかーー。
それには、2つの理由があります。
ひとつは、パレスチナ難民は難民であるがゆえに受入国の公共サービスを使えなかったり、脆弱な受入国の保健システムはすでに崩壊寸前で医療を受けられなかったりします。私たちは生きていれば必ず、病気になります。公平に安全で質の高い医療を受けることはすべての人の権利であります。難民であるがゆえに、医療を受けられないことはあってはならないことだからです。
もうーつは、UNRWAは国連総会から難民支援を任命されており、パレスチナ難民問題が解決するまで、支援をすることは当然だからです。パレスチナ難民問題は全く解決から遠く、おそらく生きている間にパレスチナの土地へ帰ることはできないと心のどこかではあきらめている人も多いと思います。そんな中、彼らが難民であり続ける限り、健康に日々を送れるよう医療サービスを提供するのはUNRWAの役割なのです。

話は、クリニックへ戻りますが、先日ヨルダン川西岸のクリニックで一人の女性に会いました。80歳を超えていて、杖を使ってクリニックに来ていました。おばあちゃんは一人暮らしをしていて、近くに妹が住んでいるが、身の回りのことは全部自分でしていると話してくれました。高血圧を患っており、定期的に薬をもらいに通院していて、数か月に一度クリニックの医師、看護師に会うのが楽しみだそうです。クリニックの裏庭でたまに一緒にアラビックコーヒーをクリニックスタッフと一緒に飲んで、話をするそうです。体調のことだけではなく、生活のこと、食事のことなども気にかけてくれるのがありがたいとおっしゃっていました。
前述の通り、UNRWAのクリニックは診療数が多く大忙しですが、患者ひとりひとりに寄り添うことも忘れていません。クリニックのスタッフは医療者であると同時に、彼らもパレスチナ難民であります。パレスチナ難民がパレスチナ難民のお世話をしている難民支援はUNRWAならではだと思います。少しでもUNRWAのこと、パレスチナ難民のことを私たちのブログを通して知ってもらえると幸いです。

次回は、私が保健局でどんな仕事をしているのか紹介したいと思います。
UNRWA 保健局 小川真以
