UNRWAエルサレム本部渉外・広報局の新田朝子です。
このブログでは母子手帳について紹介します。
日本の皆さんは、母子手帳に馴染みがあると思います。実は、パレスチナ難民のお母さんと子供たちにも日本の協力を受け、母子手帳が約15年前に導入されました。
それまでは、パレスチナでの妊産婦・乳幼児死亡率が高く、母子手帳を活用した包括的な質の高い母子保健サービスの提供を行うため、パレスチナ自治政府、JICAとUNRWAの共同で母子手帳の導入を行いました。
母子手帳を導入するメリットの一つは、育児や健康、妊娠中のケアについて両親の基礎的な知識が高まり、それによって家族での健康行動が変わることです。自分と子供の医療情報を持ち運ぶことができる母子手帳は、実は途上国ではあまり普及できていません。
UNRWAの5つの活動エリアである、ガザ地区、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、レバノン、シリア、ヨルダンで母子手帳が使われるようになったことで、母子の健康にはどのような変化や改善が見られたのでしょうか?
UNRWAの清田保健局長と、母子保健の専門家であられる坂東あけみさん(母子手帳国際委員会 理事長)、中村安秀(公益社団法人WHO協会理事長)、萩原明子さん(JICA国際協力専門員)、後藤久美子さん(JICA パレスチナ事務所)の5名の方に今回話を伺いました。
一つ目は、妊娠中の医療機関の受診率と新生児・乳児のワクチン接種率の向上や健康意識行動の改善です。
例えば、ガザ地区では妊婦さんの妊娠期間の検診の受診数が現在、平均6回を超え、WHOが推奨している最低4回という水準を上回っています。
ガザ地区のクリニックを訪問した時には、母子手帳があるおかげで次の予約を忘れなくて済む、と話してくれたお母さんもいました。
二つ目は、乳幼児のワクチン接種率の向上です。母子手帳のワクチン接種のページは、UNRWAの学校へ入学する際に予防接種証明としても使われています。UNRWAのクリニックに来る乳幼児のワクチン接種率はほぼ100%で、ワクチン未接種による疾病の報告はありません。
また、ガザ地区においては、国外に移動が必要になった際に母子手帳が子供の予防接種の証明として使われるからこそ大切だと、何人ものお母さんが口を揃えて話してくれました。
そして、三つ目に、母子手帳は家族の歴史を記録してくれることです。
パレスチナの社会では、子供を産み、育て、教育するということが大きな社会的価値観にもなっています。難民として暮らす中、子どもの成長の過程を記録し、教育への窓口に母子手帳が大きな役割を果たしています。
また、難民の人々は、難民であるがゆえに住む土地を転々としたり、受け入れ国の状況により、いつ再び避難しなくてならない状況になるかわからない、脆弱な立場にあります。
妊婦、授乳中の女性、子供は脆弱な難民のなかでもさらに立場が弱く、健康面で最も影響を受けます。母子保健手帳があることで、例えばシリアからレバノンに逃れてきても、健康情報が記載されていることで医療従事者がデータを確認することができ、継続したケアを受けられるというメリットがあります。
このように、母子手帳を持っていることで、避難先のクリニックでも活用することができ、母子の命を守る「命のパスポート」にもなっています。
日本の母子手帳と共通のメリット、そして、パレスチナ難民ならではの母子手帳を持つメリット、のどちらもあることがわかりました。

さらに、UNRWAは、2016年からJICAの協力を得て、母子手帳を電子化しました。アプリのダウンロード数は、2022年は約4万件、1年あたりの新規の妊婦さんの数が約8万人なので、おおむね半数がダウンロードしています。
アプリでは、産前検診や子供のワクチンの予約のリマインダーが送られたり、尿検査や血液検査の結果、体重・身長などの基本的な健康指数が見ることができます。
また、UNRWA以外の医療機関にかかった時や、母子保健手帳を持ち歩かなくても自身のアプリに情報が残っているため、それらを病院に参照してもらい、一貫性のあるケアを再び受けることにも繋がります。
このようにして、UNRWAでは年間8万人の妊婦さんが新しく登録され母子手帳を受け取り、年間40万人の5歳以下の子供がクリニックを受診しています。
そんなパレスチナ難民の「命のパスポート」母子手帳にまつわるイベントを、ガザ地区とオンラインにて、2023年6月6日に開催します。
詳しくは、以下のプレスリリースをご覧ください。
記事の公開やイベントの開催にあたり、情報提供やご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。
UNRWA渉外・広報局
新田 朝子
▷参考資料(JICA)
「パレスチナの母子健康手帳」
https://www.jica.go.jp/project/palestine/001/news/ku57pq00000m92u8-att/20121105_01.pdf
「なぜ母子手帳?機能と効果」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/health/mch_handbook/effect.html